とっちらかんと

~迷子の寄り道~

【PERFECT DAYS】なぜだか感情が溢れた。

言葉にする事が躊躇われるようにも感じる作品で、それでも書き始めてみると、作品に付随して感じた事がこんなにあったのかと思うほど長くなりました。

自分にとって面白くなかった作品を、わざわざ攻撃的な言葉を選んで否定しているような方の発信を目にして、観るのをやめてしまう方がいるのなら、それはとても残念だな。自分で観て、聴いて、感じた事を心の内で味わって欲しいな。モヤモヤしても、そのモヤモヤごと味わって欲しいな~と思ったりします。常々思っているけれど、特に誰に言うでもないこんな事を、文字にしてみようかなと、観終わって数日経った今、そんな気持ちが湧いてきました。

レヴューやら解説動画、SNSやらで他人の感想など目にする機会が増えるとともに、観もせずに評価をつけるような方も増えたのかもしれないと感じる事もある。強制的にも感じるオープンマインドや多様性推しが、むしろ2つに1つしか答えが無いように視野を狭めているような。自分自身が自分の心の内を味わう前に、言語化した発信を迫られるように感じている方も居るのかもしれない。

私が書く事もレヴューのうちでしょうから、自分を棚に上げるわけにもいきませんが、良し悪しを決められるものばかりではないと思っていて、こちらの作品がまさに、そういうようなことを誰かに伝えるためには分かり易い作品かなと思いました。先月に観た最後の1つ、「PERFECT DAYS」です。

作品名:PERFECT DAYS

監督:ヴィム・ヴェンダース

製作年:2023年
キャスト:役所広司 他
 

私自身は、おそらく昔は観られませんでした。が、今の私には鮮烈で、円盤の購入を迷っているほどです。今のところ、Amazon Prime Videoで無料視聴可能。

最初に感じたのは「道教」。次第に、「幸福」「苦悩」「豊かさ」など、次々に湧いてくるものがありました。昨年やっと読んだ「老人と海」も頭に浮かぶ。そして、起こる事全てに答えがないまま、全てが通り過ぎて行き、何がどうなって自分がどう感じようが時間は流れ続ける。当たり前の残酷さを感じながら、修行のようにも思えるほど規則正しく全てが決まっている毎日の習慣、1日の流れが、辛さやそういったものから、今その瞬間へ自身を引き戻す碇になっているような、ある種の安心感。

相手の反応や、その感受性に共感を覚えたり嬉しさを感じても、相手が主人公の毎日の中に留まることがない距離感も、1つをきっかけに連鎖するイレギュラーも、そんなイレギュラーに対応できる柔軟性はあるけれど、場合によっては感情が表に出る事だってある主人公も、全てが私には自然に思えた。

長い間疎遠だったであろう妹との対面のシーンから、親や家に対して当てつけのように今の生活を始めたのだろうなと、なんとなく推察していたものが推察から先へ進む。妹への思いは親へのものとは違うけれど、それでも妹の言葉や表情に滲み出るものもあって。主人公の心がそうさせているんだろうなと感じる動きのあるこの短いシーンが、どうしても心に残る。

きっかけがどうであれ、この生活の中で美しさや幸福を感じながら自分の心を守り、自分の好きと大切を積み上げ続けて、やっと落ち着いてきた頃なのかな。と、こんな感じの事が、私がこの作品を観て考えた主人公のバックグラウンドというか。余白の部分を埋めていくような観方をしたようです。

葉の重なり合う瞬間の木漏れ日や、聞こえるような気がする音。これは、実際に聞こえていたかわからない止まったようにも感じる瞬間があって、聞こえたというより感じたような気もする。小さな行動の中の愛おしさだったり、満たされていくものを感じたり、なぜだか涙がこぼれたり。夢の描写が私には恐ろしくも思えたけれど、また始まる1日で中和されていく。車の中で音楽を聴くシーンなんかは、クスっとする描写もあったりするけれど、その音がまた、心地良い。

 

しばらく有料レンタルと思われますが、一応、そろそろ日本語字幕の選択を可能にしていただきたいU-NEXTも貼っておこう。

出てくる人出てくる人、キャスティングもその役どころも素晴らしかったのですが、主人公の興味の対象の1つでもあるホームレス役、舞踊家田中泯さんが特に印象的。放つ空気が印象に残る。先述の妹役は麻生祐未さん。ごく短いシーンですが、引き込まれました。主演は役所広司さんなのですが、若い頃の作品では中性的な美しさを感じたけれど、今も尚、格好良さを増し続けているなんて凄いことです。

分かり易さやある種の答え、派手な効果等の見応えを求める方や、映画を特別な非日常として求めている方には退屈過ぎるだろうし、今が苦し過ぎて余裕がない方は、観続けるのが苦しいかもしれない。でもどうか、いつかもう一度観てみて欲しい。空回り、誤解、日々チクチクする瞬間を、それも幸せの一部だと感じられますように。